私は、あらゆる組織・個人の中に、「依頼された仕事をやらない人」を見てきた。
例えば、コンサルティングに訪問した会社のプロジェクトチーム内に。
あるいは、執筆を依頼したライターさんに。
またあるいは、会社の同僚・部下に。
彼らは確かに、「依頼された事柄」に対して、「はい、引き受けます」という。
しかし、遂行される気配がない。
心配になって、「あれはどうなりましたか」と聞く。
すると「あ、すいませんやります」と返ってくる。
しばらく待つ。
それでも何も遂行される気配はない。
もう一度「この仕事、やりますか」と聞く。
「やります」と返信がある。
それでも、何も遂行される気配はない。
結局、こちらから連絡するのをやめ、処理はこちらでやることになる。
こういう人々には、「引き受けたじゃないですか!」と怒ったところで無駄であるし、代わりの人を探したり、時には自分でやったりしたほうが早いからだ。
でも、彼らに対する評価は残る。
組織内、あるいは知人たちで共有される。
「彼は仕事をちゃんとできませんよ」と。
場合によっては、その旨を上司に報告し、プロジェクトメンバーを外すようお願いしたことも数多くある。
「依頼された仕事をやらない人」は、なぜ仕事をしないのか
当初、私は彼らのこうした行動に対して、マネジメント側で「改善が可能」だと信じていた。
例えば
タスク管理ツールの導入。
進捗の細かなチェックとヘルプの申し出。
仕事の負荷の調整。
かなり様々な手段を試した。
ある時は、途中まで一緒にやり「後は自分でやれる?」と聞き、「やれます」と言ったので、独り立ちさせたこともあった。
しかし、多くの場合、彼らは一人になった瞬間に、手を止めてしまった。
結局「終わった?」→「まだです」のコンボで終わる。
次第に、マネジメントの問題や、やり方に原因があるのではない、と私は悟った。
*
そこで次に考えたのが、「仕事が彼らの能力に比して、難しすぎる」という可能性だ。
確かに、そういうケースもあった。
ろくな技術を持っていない人に、難しい依頼をしても、仕事が完遂されるわけがない。
しかし、現実にそのケースは実は少なかった。
なぜかと言えば、「本当に技術的に無理な仕事」をお願いするケースはほぼないし、そういう仕事はそもそも「引き受けさせることができない」。
つまり「やります」という返事にはならない。
そのうえ、彼らが知的に劣っているとか、能力的に低いとか、特段そういった傾向も見当たらなかった。
もちろん、強権を発動させ、「やらないって言ったらどうなるかわかってるだろうな」と脅迫すれば、引き受けさせることはできるかもしれないが、そんなことをすれば困るのはこっちだから、そんなことは絶対にやらない。
相手のスキルを確かめ、「できますか?無理ではないですか?」と必ず念押しをしてから、引き受けてもらうことがほとんどだった。
*
ではなぜ、彼らは「やれる能力」があり「引き受けた」のに、仕事をしないのか。
いろいろと考えた挙句、私がたどり着いた結論は、「たぶん、面倒になった」だった。
私は昔、コンサルタントの先輩から言われた言葉を改めて思い出した。
世の中の人は、あなたが思っているよりも、ずっと仕事ができない。
と先輩から言われたことがある。
「なぜ」と聞くと、
「みんな、面倒くさがりだから」
と言われた。そう。
能力ではなく、「面倒だ」のほうが
解決が難しいのです。— 安達裕哉(Books&Apps) (@Books_Apps) March 22, 2022
面倒なことはしない、なんか嫌になった、そういう感情が、「約束を守らねば」という義務感を上回ると、彼らは何も言わず、仕事を放棄する。
ただ、勘違いしてはいけないのは、彼らは「やる気がない」わけはない点だ。
彼らは仕事を引き受けたときは確かに、「やろう」と思っている。
だが、「考えなければならなくなった」時に、「面倒だな」が首をもたげてくるのだ。
*
つい先日、私は、コラムニストの小田嶋隆氏の、アルコール依存症からの脱却を書いた作品「上を向いてアルコール」の中で、これに近い話を見かけた。
彼は、締切にプレッシャーを感じないタイプで、編集者が泣いていても、電話が終わったら遊びに行ってしまうタイプ。
夏休みの宿題も、最後の最後までやらないタイプだと自認している。
そしてそれは、立案や計画がとにかく苦手、という性質をもつ、「色々考えるのが嫌な人たち」に属するという。
世間の三割くらいは、「オレ、考えるの嫌だ」みたいな人で構成されていて、酒を飲む人もたぶんそのグループの仲間に含まれています。(中略)
そういう人たちにとって、ノルマそのものはつらくてもいいんですよ。
世間にはジョギングを毎朝一〇キロやるという人たちがいます。一〇キロ走ることのつらさは、その人たちにとったらどうってことなくて、彼らにとっては、ただいろんなことを考えるのが嫌なんです。
私もおそらくそっちのほうのタイプで、だから勉強とかは、基本的にはしません。
いや、勉強をしないという言い方はちょっと違う。勉強そのものよりも、なにより学習計画を立てることが大嫌いなんですね。
昔からそうですが、きちんと学習計画を立てて自分の成績を勘案しながら、こういう勉強をするんだ、みたいなことを考えると吐き気がしてくる。
でも、「お前はとにかく死ぬまでこの単語帳を丸暗記するんだ」という課題を外部から与えられると、案外できたりします。
面白いな、と思ったのは、「ノルマそのものはつらくてもいい」というくだりだ。
確かに、つらそうな仕事でも、最初彼らは「やります」という。
「これだけやってりゃいい」という指示を与えれば、短期間で爆発的な力を出すこともある。
でも、プライベートで何か起きたり、当初の予定通りいかず「ちょっと考えなければならないこと」が出来た時点で、彼らは、仕事を放り出してしまう。
*
「依頼された仕事をやらない人」は、なぜ仕事をしないのか。
それは、知性の欠如でも、努力ができないわけでも、意欲がないわけでもない。
単に「色々考えるのが嫌」という、もう少し根の深い部分に、課題がある。
したがって彼らへの指示は、「出来得る限り単純化する」ほうがよく「あれこれ考えさせずにできる仕事」を与えなければならない。
「得意な仕事」だけを「考えず」にできるようにしてあげなければならない。
だが問題は「会社の中に、立案や計画が不要な仕事が少なくなっている」
「まずやってみて、軌道修正をかけていく仕事が増えている」
という、冷たい事実であり、彼らのやれる仕事がどんどん減っているという現実だ。
そして、それが、彼らの活用が難しい、という経営管理者たちの悩みを生み出している。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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